“新しい宝石はツーソンから”と言われるように、ツーソンは世界中から出展者とバイヤーが集まる世界一の宝石・鉱物フェアーである。この日のために長い時間をかけて集められた宝石コレクションのデビューの場でもあり、新しい宝石との出会いに胸膨らませて、再びツーソンの地に降りたった。
今回は、ロサンゼルスの飛行場で、予約していた飛行機が出発の1時間前になって欠航になったとのアナウンスがあり、飛行機でツーソンに入る事が出来なかった。別の便でも空席は見つからず、同じ状況の旅行者がカウンターに列を作る程であった。幸いにも、イーダー・オーバーシュタインからツーソンに出展のために来ていた知り合いに会う事が出来、急遽ロスアンゼルスから途中に位置するアリゾナ州最大の町フェニックスまで飛行機で行き、そこからレンタカーでツーソンまで約100マイルをドライブしようという事になり、同行させてもらう事が出来た。夜のアリゾナのドライブも快適で、約2時間の運転で、真夜中にやっとツーソンに到着した。
?1954年Helen Keeling Schoolの体育館でスタートした展示会も今年は53回目を向かえ、38箇所の会場に43のグループが出展して、1月26日から2月12日まで最短4日間、最長18日間の展示会が開催された。世界中から4万人近くの人々が“新しい宝石との出会い”を求めてツーソンに集まった。
GJX Gem & Jewelry Show???????????????????? Gem & Lapidary Whole Sellers
Mineral & Fossil Co-op???????????????????????????????????????? ?A.G.T.A.
?1月26日から2月4日までの10日間に、出来る限りの会場を回り、気づいたら1200枚の写真を撮影していた。特に今年のツーソンの特徴と思われる展示を中心に、それらの写真の一部を紹介する。
1)会場
Glove-XDays Inn????????????????????????????????????????? A.K.S.Gem Show
?今年の会場は38箇所に増えていた。会場といっても、高級リゾートホテルの大ホールに美しいガラスケースを並べて展示している会社から、野外に張られた大きなテントの中でテーブルを並べて展示している店まで様々である。中には、会場近くに大きなトレーラーを横付けして、その荷台に石を並べている人もいるし、道の両側にテーブル1台を置いてその上で商売している人もいる。
?取り扱われている品物は多く、宝石のみならず鉱物や化石、巨大な置物、専門書、専門工具や機械、宝石処理用の薬品・・・等、ツーソンで手に入らないものは無いと言えるほど、様々な業者が出展しているのもツーソンのおもしろいところである。
2)特に目に付いた産出国
世界経済の流れの中で、近年中国とロシアが際立っている事は誰もが認めるところであろうが、今年のツーソンでもまさに同じ現象が見うけられた。中国からの出展業者は目立って増えていて、美しいフローライトや輝安鉱、シーライト、スミソナイト等の中国産の結晶が多量に展示されていて、従来の市場を独占するかの様な勢いである。ロシアからの出展業者もまた、大変に多く、ロシア産の良質な原石が目立つと共に、出展品の種類そのものが増えていた。
3)心に残った宝石
?38の会場全てを回るのは大変に忙しく、約1万社が出展している為にそれらのブースを全て見て回る事は不可能である。しかし自分が見たい石があれば、逆に石が自分を引き付けてくれて、そこで新しい出会いを生み出してくれる。そんな中で、今回は特にインクルージョン鉱物が大変目に付いた。水晶の中に入っているギラライト、ホランダイト、フローライト・・・等は大変おもしろい鉱物である。8ct近い大きく、美しいコンクパールや、直径22mmの真円の白蝶パール、メキシコ産のデマントイド・ガーネット、50ct程の大変美しいスリランカ産クリソベリル・キャッツ・アイ・・・等など。ツーソンはゆっくり時間をかけて見て回ると、博物館に展示するような宝石によく出会う。
4)パライバ・トルマリンのツーソンでの現状
?2005年春頃に日本市場で見かけるようになったモザンビーク産のパライバ・トルマリンは、昨年初めから夏頃まで本格的に採掘され、瞬く間に世界の三大宝石加工地であるブラジル、タイとドイツに持ち込まれた。それぞれ大きさや品質は多少違っているが、今までのパライバ・トルマリンの流れを変えるほどの質、量、サイズであった。ホテルの別室を貸し切って招待客だけを入れてゆっくり商売している会社もあった。80ctのペアーの石には言葉も失ってしまった。特に注意して見て回ったがブラジル産のパライバ・トルマリンは大変少なく、美しい石は又一段と高くなっていたような気がした。パライバ・トルマリンの色は、やはり際立っている。
5)大型の置物
ツーソンのフェアーには、身に付けるための宝石だけでなく、宝石博物館や自然史博物館などに展示するような大型のディスプレイ用の宝石や鉱物が取り扱われている。庭に展示されていた約4mのアメシストの独鈷、壁一面に展示されていた約2億年前の化石のかたまり、一瞬博物館に入ったのかと錯覚するほどの数百キロサイズの水晶の独鈷の数々、等身大よりやや大きな大理石に彫刻されたやさしい顔のヴィーナス像・・・等、目を見張るものがたくさんある。特に驚いたのは、ライオンやカバ、鹿などの剥製がぎっしりと並べられていた。聞く所によると、自然史博物館のディスプレイとして使われているとの事である。ライオンの毛並みに触れたのも初めてであった。
6)アメリカ産の宝石とデザイナー製品
今回のツーソン・フェアーでは、デザイナーによる新しい製品が目に入った。特に一見ドイツのムーンシュタイナー・カットではないかと錯覚する、アメリカのMichael Dyber氏の丸型や溝がパビリオン部に掘り込まれたカット石、ムーンシュタイナーのカット石を用いて、独自にデザインを起こし、ペンダント等に加工した製品、アメリカのユタ州で世界で唯一、最高級品質の宝石が産出されているレッド・ベリルの専門店、又ユタ州産出のバリサイト(Variscite)の原石を用いてその緑色部だけを彫刻した珍しい置物、アメリカ産トルコ石の専門業者、AGTAの鑑別書が付いていた金や銀入り水晶の製造者・・・等、地元アメリカの出展業者が目立っていた。
7)世界の珍しい彫刻品
それぞれの国で産出される原石を用いて、その国特有の動物や鳥などを1点ずつ手彫りで仕上げた彫刻品は大変すばらしく、しかも安価なものが多い。国ごとの物価水準の違いにより、彫刻家の工賃も違ってくる。特にジンバブエで彫刻された象、キリン、サイ、猿・・・のバーダイト(Vardite)の原石を用いた彫刻品は、高度な彫刻技術で彫刻されたため大変質が良く、価格は安いものであった。コンテナ1台を確保して日本に送りたいほどであった。又、ペルーで産出された原石に小鳥などを彫刻した置物は、小鳥の姿がはっきり表現されているものが多かった。動物の牙を用いた彫刻品、ドイツからのアクアマリンやイエロー・ベリル等に動物が彫刻された置物が目に入り資金的に許されるのであれば、あれもこれも買いたい物ばかりであった。