輝かしい年頭にあたり 皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。
昨年も格別のご用命を賜り厚く御礼申し上げます。
皆様のますますのご発展を祈念しますとともに、
本年もなお一層のお引き立てを賜りますようお願い申し上げます。
令和7年 元旦 日独宝石研究所 所員一同
年賀状に用いました写真のご説明をさせていただきます。
コロナ禍の影響により、今なお宝石の採掘は以前に比べて少なく、新しい宝石の発見もなかなか見られない状況です。その中でもアフガニスタンからのアウインの発見は珍しい例だったと思います。特にアフガニスタンからのアウインには、青だけではなく緑色のものが特徴的で、その中にはこの写真のようなインクルージョンも見られました。色は緑色ですが、紫外線蛍光は青いものと同じくオレンジ色でした。その色も緑だけではなくさらに黄色のものまで拝見することがあるとは思いませんでした。
こちらもアフガニスタンのアウイナイトですが、上の写真のように、筆記体の「m」のように微小インクルージョンが連なったものが見られました。円弧が2つ連なったものかとも思われましたが、平面上で連続したもので、なぜこの様になったのか、なかなか説明が難しいです。しかし、残念なことに下の写真のようにフラクチャーにはキラキラする含浸された部分が見えて、アフガニスタンのアウイナイトにも含浸がされるようになっていることは残念でした。
こちらは、パキスタンから産出したデマントイド・ガーネットに見られたホーステール・インクルージョンです。ホーステールは実は多くのデマントイド・ガーネットに見られます。特に近年見られるパキスタンのものは色も透明度もロシアのものに外観も非常に似ていて、今後の産出に期待されるところです。
こちらは昨年拝見したロシアのデマントイド・ガーネットで特に、ホーステール・インクルージョンがきれいなものです。
新しい産地ではないですが、ベトナムLucYenのルビーにはミャンマーのものに非常によく似たものも見られます。こちらはミャンマーのルビーでよく見られる糖蜜場組織が見られたベトナムのものです。
比較的新しく、珍しい産地のルビーとして、グリーンランドのものが挙げられます。グリーンランドのルビーには、強い圧力を受けて生じたブラインドのような双晶がよく見られます。また、それは角度を変えると、無数の針のようなインクルージョンとしても見られ、上記のようなインクルージョンとなります。
こちらは、ゴールドシーン・サファイアと呼ばれるケニア産のサファイアです。スター・サファイアのルチルと違い、こちらはイルメナイトやヘマタイトなどの鉄に由来するインクルージョンに光が反射し、シーン効果を生み出します。その輝きは強く、シーンが見られるところが写真のように強く光を反射をします。
こちらはタイ産のサファイアに見られたシルク・インクルージョンです。こちらのシルク・インクルージョンは強い光ではこのようにきれいに見えますが、通常の照明ですと全く見えないもので、宝石の美しさを邪魔しない、よいインクルージョンでした。また、複数集まっているところが特徴的でした。
昨年、顕微鏡写真のシステムを調整しました。それによってよりきれいな写真を撮影できるようになりました。こちらはムーンストーンに見られるムカデ状インクルージョンです。ムーンストーンが持つ双晶の境界に生じた割れが、このようにムカデの足のように見えます。
昨年はベトナム産のオレンジピンクのスピネルに見られた、針状のインクルージョンです。元はディスロケーションによる空隙と思われます。ベトナムからは、鮮やかなコバルト・スピネルだけでなく、様々なスピネルが産出しておりますが、昨年は台風による洪水の影響で鉱山にも大きなダメージがあったと伺いました。早い復旧を願うところです。
こちらはダイアモンドで、カボション・カットされたものですが、ドーナツ状の形状ではありません。宝石顕微鏡の暗視野照明は周囲からライトが当たることインクルージョンが見えやすくなっていますが、屈折率の非常に高いダイアモンドではその周囲からの光が中央に集まり、カボションの裏から見るとまるでドーナツ状の形状に見えるものでした。
こちらは合成ダイアモンドに見られた変わった成長線です。結晶構造に沿った方向に並んでおり、その結晶の形による屈曲が見られます。合成ダイアモンドは今ではCVD法が主流ですが、こちらはHPHT法によるもので、かつ1ct以上の大きなものでした。しかし、昨年は展示会の卸売価格ではすでに1ct 99ドルという100ドル切る値段で販売されていたといいます。天然と比較することはない値段になっており、全く別の商材となっていってほしいと思います。特に合成というと悪いイメージもありますが、合成ダイアモンドでは様々な新しいカットが試されています。そこで生まれた新しいカットが、ラウンド・ブリリアント・カットから新たな一歩を踏み出すきっかけになればと願っています。
こちらは合成のアレキサンドライトに見られた、曲がった成長線です。天然のアレキサンドライトにもルビーのような糖蜜状の構造が見られることがあり、それかとも思われましたが、下の写真のように気泡があり、結晶引き上げ法による合成であることがわかりました。還流品の鑑別が多くなったためか、鑑別で合成石も見られることも増えてきたように感じます。気をつけないといけません。
本年もより一層、研究を深め、サービス向上に努めてまいります。本年はよりインクルージョンの研究に注力したいと考えており、なかなか進めらていないGem Informationも発行したいところです。やらない後悔よりやって大成功。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
日独宝石研究所 所員一同 令和7年元旦