1) 今までの加熱方法と実験結果

Comparison with exiting heat treatment

宝石加工の歴史に於いて加熱加工は画期的な発見であり、それによりたくさんの美しい宝石が供給されてきた。コランダムにおける加熱加工は1970年代初めより行われていると言われているが、実際には、はるか以前より色々な方法で既に行われていたという説もある。
加熱加工で重要な要素は、酸化と還元であり、又それらの加熱温度である。酸化とは物質中の原子の正の電荷数が増加する事であり、具体的には、酸素と化合するなどして電子を失う事である。還元とは酸化に相対する語で、本来の意味は酸素化合物から酸素原子を取り去る事である。さらにプラスの水素イオンを添加する反応も還元と言う。

コランダムにおける加熱温度は大きく分けて低温加熱(800?1000C)と、中温加熱(1300?1400C)、高温加熱(1700?1800C)に分かれ、少しずつ温度を上げて変化の様子を見て、又温度を上げてはチェックを繰り返して、宝石用として利用できる最高の美しい品質に仕上げられる。例えばルビーの加熱方法は、美しい赤色にするために、酸素を加えて酸化を促すことにより赤色に含まれているパープルやブルーを抜き取る。この場合は低温加熱で抜き取る事も可能である。

淡灰、淡黄、淡褐、淡青、無色等のギューダ(Geuda)の加熱方法は高温加熱を必要とする。カーボンを多量に含む灯油やプロパンガスを加え、燃焼を高める酸素を補給しながら温度を上げて行く。高温になると反応が良くなり、美しい色が誕生する。ギューダ(Geuda)の場合はそれぞれの宝石のもっている要素にもよるが、1700C以上に上げると美しい青色になる。一足飛びに1700Cに上げるのではなく、約7段階の工程を経てやっと理想とされる色が生み出される。もちろん7段階の途中で、それぞれの宝石の持つ要素により、低温、中温ですでに最高の色に変わるものもある。その場合は、その時点で取り出す。もし誤って高温にしてしまうと色が濃くなりすぎて使えなくなる場合もある。

加熱する時には、ガスに酸素を加えて燃やす。その場合のガスには水素ガス(Hydrogine)窒素ガス(Nitrogine)、プロパンガス、アルゴンガス(Argon)等が考えられ、それに灯油を混ぜながら燃焼する。このガスは、空気中の酸素が石と結合しないように、酸素の代わりに石の周りを包む役割をしている。 これらの加熱方法でミックスされた約1Kgの原石を実験した。
1.最初に肉眼でわかる範囲で、コランダム以外の石を取り除く。
2.バレル磨きをかけて、丸みを帯びた石(硬度の低い石)は全てはじき出した。(約200g)
3.1000C加熱――天然の濃青色のサファイアが少し淡くなり、透明感が良くなったのでそれらは取り出した。約900Cで、ガーネットは既に溶けている。
4.1400?1450C――天然の淡青色のサファイアでチタンの含まれている石は、約1350Cでチタンが溶け、還元されて青みが増した。ジルコン、ガーネットもこの途中で溶けている。
5.1500?1550C――まだ色が淡い場合には更に温度を上げるために、灯油を加えて還元を進める。灯油→加熱→カーボンを増やす→高温になる。 クリソベリルなども溶ける。
6.1600?1650C――5の工程を繰り返し、温度を上げる。
7.1700?1750C――さらに繰り返し温度を上げる。
使われる燃料は、基本的にはプロパンガスと酸素の組み合わせで加熱が進められた。
以上のように何回も温度を上げながらチェックする作業を繰り返し、美しい色に変わった石はその都度取り出した。
1から7の工程で約3分の1の250g程がサファイアとして売れるほどの青味を増した。残りの500gのうち約半分は、酸化させて黄色に仕上げ商品化した。残りの250g程は変化なく、無色サファイアとして販売する。?以上の実験で青味を増した石は、色相、透明感などの点ではグレードが低く、価値の低い石であったが、約3割はやっと商品として使えるものであった。

(注:溶けた石は推定である)

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